倉敷民商弾圧事件差し戻し審弁護団意見書(2)
4差戻後に明らかになったこと
差戻から5年半の空転の原因が、検察が自ら証拠を検討することを怠り、査察官報告書により有罪立証できるとの誤った判断をもとに禰屋さんを起訴したことにあることが明らかになった。
検察が法人税法違反の立証に使おうとした査察官報告書が出そろったのが2014年2月4日、2月7日には広島国税局が五輪建設を法人税法違反で告発し、禰屋さんが法人税法違反で公訴提起されたのが3日後の2月10日である。
検察が膨大な証拠資料を検討する時間はないし、検察が査察官報告書の記載内容を検証するだけの時間も無かった。
通常検察は証拠を検討し、有罪を立証できると確信できた場合に公訴を提起する。99%を上回る我が国の有罪率はこのような検察実務に支えられている。しかし、本件では検察は証拠の検討を怠っている。
法人税法違反を皮切りに倉敷民商事務局を身柄拘束して捜査・起訴して弾圧するという筋書きから何としても起訴する必要があった。他方、身柄拘束されることなく、パソコン等の事業に不可欠な物の応酬を差し控えてやるという飴を与えられたこともあって五輪芙美子や五輪幸夫が査察官報告書が作り上げた脱税ストーリーを認めていた、即ち正犯が有罪を認めているという事情から禰屋さんの有罪をできると軽率に判断したものと考えられる。
禰屋さんを起訴した検察官が証拠を精査することなく、査察官報告書に乗って起訴したことから、差戻後に本件を担当することになった検察官は初めて独自に証拠を検討して分析し立証計画を立てることになった。そのために長い時間を要した。さらに、弁護人が膨大な量の証拠をコピーし、あるいは撮影して証拠の開示を受け、これを検討した上で検察の立証計画に意見を述べるのにも時間を必要とした。そのために5年半もの期間を要することになったのである。
5弁護団は審理の当初から公判前整理手続を求めていた。中田コートがこれを受け入れていれば、あるべき審理が行われていたはずである。江見健一裁判長が査察官報告書を鑑定書として烏買うことを示唆し、中山大輔検事がこの泥船に乗っていなければ、破棄差戻しとその後の5年半は無かった筈である。
公訴提起から9年の長期裁判となった責任は検察と裁判所にある。憲法第37条第一項が禰屋さんに保障した公平な裁判所による迅速な公開裁判を受ける権利が侵害されているというべきである。弁護人や禰屋さんが主張し続けたように証拠も無いのに公訴提起したことが明らかになったということである。検察は公訴を取り消すべきである。
第2法人税法違反幇助・税理士法違反の起訴は公訴権の濫用
1五輪建設関連の捜索差押え
(1)2013(平成25)年5月21日、広島国税局収税官吏(以下「収税官吏」)が大挙して岡山県倉敷市新田1294にある倉敷民主商工会(以下「倉敷民商」)事務所にやって来て捜索・差押えを行った。その際査察官が差し押さえた物件は差押目録に記載されている。
この捜索・差押は倉敷民商の会員であった五輪建設株式会社に係る法人税法違反の嫌疑に限定されていた。
ところが、収税官吏は五輪建設に係る法人税法違反の嫌疑と関係のない倉敷民商が所有ないし保有する事務局員の手帳、スケジュール帳、会議のレジュメや資料、事務所に相談に来た会員の相談記録、事務局員の給与台帳、会費の領収書控え、全商連及び県連から届いた資料、会員の確定申告書控え、さらには事務所にあった全てのパソコンまでも差押えて持ち帰った。
また、捜索差押えの最中において収税官吏は法的根拠がないのにもかかわらず、倉敷民商事務局員が外部と連絡することを禁じ、捜索・差押に立ち会った小原事務局長所有の携帯電話に連絡が入った際、「砂村」と名乗る査察官がこれを取り上げ通話を妨害するといったことまで行った。
(2)2014(平成26)年1月21日、倉敷警察署、岡山地方検察庁は、税理士法違反を被疑事実として倉敷民商事務所、事務局長小原淳、事務局員の禰屋町子と須増和悦の自宅などに対する捜索差押えを行った。